ボタニカルアート『ルドゥーテ展』

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特別展「宮廷画家ルドゥーテとバラの物語」へ

※この記事は2025年5月に訪問した際の体験記をもとに書いています。展覧会や休館情報は公式サイトをご確認ください。

金曜日の夕方。バラが好きな私にとって、心高鳴る特別な予定がありました。

仕事を定時で切り上げて向かったのは、日比谷図書文化館で開催中の特別展「宮廷画家ルドゥーテとバラの物語」です。

ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテが描いた『バラ図譜』の全170点と、貴重な肉筆画2点が一堂に会する展示。

バラ栽培が趣味の私にとって、まさに夢のような空間でした。

宮廷画家ルドゥーテとバラの物語のパンフレット
パンフレット

展示室に一歩足を踏み入れると、バラの香りがほんのりと漂い、自然と背筋が伸びます。
壁一面に並ぶボタニカルアートは、300年の時を超えて今もなお咲き誇るバラたちの肖像。

細かく描かれた葉脈のひとつひとつに、ルドゥーテの観察眼と敬意が込められているのが伝わってきます。

展示は撮影禁止でしたが、作品をひとつひとつ目に焼きつけながら、静かに心が満たされていく感覚を覚えました。

見どころポイント

  • 『バラ図譜』全点を一挙に観られる貴重な機会
  • 科学と芸術が融合した“花の肖像画”
  • 大規模展とは違い、静かな空間で一枚一枚をじっくり鑑賞できる贅沢
  • ポストカードや図録の販売も充実。
    お気に入りの作品を持ち帰れる

ボタニカルアートとは

ボタニカルアートとは、植物の姿を科学的かつ芸術的に描写した絵画のことを指します。

ただ「きれいな花を描く」だけではなく、学術的な記録資料としての正確さと、鑑賞に堪える美しさの両方が求められる、非常に高度な表現形式です。

その歴史は長く、16世紀の植物分類学の発展とともに始まりました。
特に18世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパでは植物学と芸術が密接に結びつき、多くのボタニカルアートが制作されるようになります。

ボタニカルアートは、写真が存在しない時代において、植物の知識を後世に伝えるための大切な「ビジュアル資料」

絵師たちは、花や茎、葉、根、さらには種子や果実まで、植物の全体像と細部を正確に観察し、記録する使命を担っていました。

いっぽうで、ボタニカルアートは単なる科学的イラストではなく、見る人の心を惹きつける芸術的表現

構図や色使い、余白のバランスなど、絵画としての美しさが重視され、まさに“科学と芸術の融合”といえるジャンルといえます。

ルドゥーテの黄バラ柄のファイル
バラ図鑑003  ロサ・スルフレア

なぜ今も人を魅了するのか?

ボタニカルアートは、どれほど時代が変わっても植物の本質的な美しさを伝えてくれます。

とくにルドゥーテの作品は、写実的でありながらやわらかく、静かでありながら凛とした空気をまとっていて、「ただの花の絵」とは一線を画します。

植物の一瞬の姿を、永遠に残す。
その使命感と芸術性が、今日まで多くの人を魅了し続けているのです。

そんなボタニカルアートの分野で「花のラファエロ」「バラのレンブラント」と称され、今なお世界中で愛されているのが、ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテです。

ルドゥーテの生涯と功績

1759年、ルドゥーテは現在のベルギーに生まれました。若い頃から絵画に興味を持ち、パリで植物画家としてのキャリアをスタートさせます。

彼の才能はすぐに認められ、ルイ16世王妃マリー・アントワネットの博物蒐集室付画家に任命されました。
そして、フランス革命後も、ナポレオン皇妃ジョゼフィーヌの庇護を受け、植物画家としての地位を確立させたのです。

代表作である『バラ図譜(Les Roses)』は、1817年から1824年にかけて刊行。

作品集には、ジョゼフィーヌがマルメゾン宮殿に集めた世界中のバラが描かれており、ボタニカルアートの金字塔とされています。

バラ図鑑007 ロサ・ケンティフォリア・ブラータのハガキ
バラ図鑑007  ロサ・ケンティフォリア・ブラータ

バラとボタニカルアートの美世界

ルドゥーテが「バラの画家」と称される理由は、その卓越した技術と、花に注がれた深い情熱にあります。

彼は、点刻彫版法(stipple engraving)という技法を用い、輪郭線を排除しながらも、微細な点だけで濃淡を描き出すことで、バラの柔らかな質感や繊細な色彩を見事に再現しました。

展示室で原画に顔を近づけてみると、まるで極細の針を刺したかのような、無数の点描で構成されていることがわかり、思わず息を呑みました。

その緻密さと美しさには、ただ“正確”というだけでは語りきれない、絵に対する誠実さと愛情が宿っているように感じられます。

科学的な精密さと芸術的な表現力を兼ね備えた作品だからこそ、時代を超えて多くの人々を魅了し続けているのでしょう。

また、ルドゥーテの絵は単なる植物画にとどまりません。

バラの品種ごとの特徴や、花びらの重なり、葉の質感、茎の動きまで――すべてを丁寧に観察し、詳細に描写しています。

ありのままの姿を忠実に描くという姿勢から、虫食い穴のあいた葉や、少し枯れた葉、さらには花の中心から蕾が現れる珍しい現象〈貫生花(かんせいか)〉までが描かれていたのも印象的でした。

彼の描いたバラは、今にも香り立ちそうなほどの生命感を帯びており、見る者の心をしっかりと捉えて離しません。

バラ図鑑の扉絵リース柄のハガキ
バラ図鑑 扉絵 リース

写実を超えて、花の息遣いまでも伝えてくれるような存在感

ルドゥーテの描いたボタニカルアートは、単なる図鑑ではなく、花の生命力と気品を映し出す芸術作品です。

今回の展示スペースは広くはありませんが、その分、静かで落ち着いた空気のなか、バラと向き合う時間を堪能できました。

バラを愛するすべての人に、静かな芸術体験を味わえるルドゥーテ展

ぜひ、実際に足を運んで“花のラファエロ”の世界を感じてみてください。

展示会の最新情報や、ルドゥーテに関するさまざまな活動を知りたい方は、ルドゥーテ協会(Pierre-Joseph Redouté Association)の公式サイトもぜひご覧くださいね。▶︎ https://redoute.or.jp/

書籍宮廷画家 ルドゥーテとバラの物語と我が家のバラ
わが家のピエールドゥロンサールとともに
日比谷図書文化館 特別展 『バラ図譜』刊行200年 「宮廷画家 ルドゥーテとバラの物語」 |展示情報 | イベント・展示・日比谷カレッジ | 千代田区立図書館

※この記事は2025年5月に訪問した際の体験記をもとに書いています。展覧会や休館情報は公式サイトをご確認ください。

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この記事を書いた人

金融機関で働きながら、社会人大学生として学び直し中。
フォトやアート、自然とともにある暮らしの魅力、50代からの挑戦を綴ります。

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